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ヨシロウの珈琲小屋

 
父のための、珈琲小屋を設計する。
父は朝5時に起きるや否や庭に飛び出して、夕方まで帰って来ないほどの植物好きである。手塩にかけて育てた草花に囲まれてのむ珈琲は格別であろう。植物が気温や湿度によって異なった咲き方や呼吸をするように,この小屋も外壁のシングル葺がパタパタと呼吸をし、その時々によって心地のいいような空間へ変容していく。最初は薄暗く2畳もない小さな空間であるが、例えば夏には全ての壁が開き、冬には全てを閉め小さなストーブで暖をとると、日常では感じられないような発見がある。mm単位のディテールが人が手に触りながら変容していくことで数字では表せられないような空間へと変わっていく。13gのコーヒー豆は庭をも巻き込む大きな空間へと昇華する。
なにもかも便利すぎる時代になってしまった。どこへ行くにも何をするにもスマートフォンひとつで何でも出来てしまう。我々は時代が便利になるにつれて指先しか見なくなり、庭の風景や美味しいご飯を目の前にしても素直にそれらを感じることが出来なくなっているように思う。この電子時代に逆らうようにして作られたこの小屋の中では起きることすべてがその瞬間だけでない物語で埋め尽くされている。
敷地は実家の蕎麦屋の庭である。そばを食べにきたお客さんがこの小屋の前でふと足を止めてくれたらそれだけでも力のある小屋である。情報や形態がスマート化していく一方でこの小屋は無駄こそが豊かな事のだと教えてくれる。

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